第23話【ベース転向】

初めてのコンサートも終わり、もっとギターを上手に弾けるように
なりたいと練習をしていたのだが、心の中では
一つの違和感を感じていた。

コンサートのアンコールでパープルヘイズを演っていた時、
ギターソロになって、ギター弾きなら、
「もっと、俺のギターを聞いてくれ」
となると思うんだが、自分の場合は何か
「あれ、俺、こんなところで目立ってギター弾いてていいんだろうか」
という感情が有ったのも事実で、
「うーん、自分はギタリスト向きではないのかな」
とも思い始めていた。

あと、コンサート前の練習中に、気分転換で
ベースをちょっと貸してもらって弾いてみたんだが、
思いのほか、普通に弾けて、リズムをずっと刻んでるのが
意外に気持ち良くて
「あれ、ベースも面白いかも」
とちょっと思っていた。

そして、ベース転向を決定的にする要素が一つあった。
それは『高校3年生の学校祭』
毎年、学校祭の最後の催しとして最高に盛り上がるのが、
『学校祭のライブ』でした。
基本的に、3年生がメインになってライブをやるのですが、
体育館にほとんどの生徒が集まり、普段は仏頂面の先生達も
楽しそうにライブを観ている。

自分達が3年生になって、学校祭のライブを演るのを想像した時、
あと1年と数ヶ月くらいで、H田君よりギターをうまく弾けるようになるか?
あと1年と数ヶ月くらいで、ベースを上手に弾けるようになるか?
答えは出ていました。
何故か、わからないけど、ベースは練習すればすぐに上手くなるような
予感がしました。
そして、ベースにもの凄く興味を持ち出している自分にも
気付いていました。

もう、気持ちは決まりました。
S口君の家にバンドのメンバーが集まっていた時に、
「ベースに転向する」という話をしました。
H田君とS口君は快く承諾してくれました。
ベースをやっていた彼の反応はいまいち覚えていないのですが、
「頑張れよ」みたいな感じだったかも知れません。
というのも、ベースを貸してもらって弾いた時に
明らかに自分の演奏の方が良かったので、
彼も暗に悟っていたのかもしれません。

彼はその後もコンサートを観に来てくれたり、
応援してくれたので、有り難かったです。

何はともあれ、これで正式にベースに転向することが決まりました。
肝心のベースもはっきり覚えてないんだけど、
誰かからフェルナンデスのジャズベースを譲ってもらって、
練習を始めました。

そして、すかさず、H田君とS口君から
超絶リクエストが入りました。
まず、H田君からはプリズムの『プリズム』という曲を
どうしても演りたいので、練習しておいてと
カセットと楽譜を渡されました。

聞いてみたら「何だ、こりゃ」
高速ユニゾンが入る当時流行り始めた
Fusionのめちゃくちゃ難しい曲じゃないですか。
「こんなの弾けるのか」
というのが第一印象。

S口君からのリクエストは
BBAの『Lady』を演りたいから、練習しておいて。
「ぐふふ、これも難しいんですけど」
もう、笑うしかない。

でも、高校生のやる気満々の自分には、
その曲をライブで格好よく演奏している姿しか
想像できない。
もう、やるしかない。

それからは、サッカーの練習もやってたけど、
それ以外の使える時間はほとんどベースを
弾いているという生活が始まりました。

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