第3話【衝撃の出会い】

おじさんにもらった2本のテープを
聴きつつも、特にどちらの音楽が
好きというわけでも無く、
中学生になっていました。

そして、その頃、日本にはスコットランドのエジンバラから
とてつもないハリケーンが上陸していました。

「タータン・ハリケーン」と呼ばれた「ベイ・シティ・ローラーズ」です。
クラスの女の子はほとんど皆ファンで、
好きなメンバーの雑誌の切抜きを
下敷きに挟み、ちょっと不良っぽい(レスリーっぽい)
男子を仮想レスリーにみたてて、休み時間になると
追い掛け回したりして、狂気の沙汰でした。

自分はサッカー部だったので、基本スポーツ刈りですが、
ちょっと伸びてくると、髪の毛が硬いため、
ツンツンになって、「おっ、エリックっぽいな」とか、
今、考えるとちょっと恥ずかしいですが。

当然、レコードも買っていました。
何を隠そう、初めて自分で買った
レコードは「エジンバラの騎士」でした。
「噂のベイ・シティ・ローラーズ」も
もちろん買っていました。

そして、夏休みになり、ロックの好きな
おじさんの家へ遊びに行くことになりました。
もちろん、おじさんに自慢しようと
ベイ・シティ・ローラーズのレコードを持って。

おじさんの家に着くなり、
レコードを見せて、ベイ・シティ・ローラーズが
いかに人気が有って、凄くて、いかしてるか、と言うことを
マシンガンのように話しました。

そして、おじさんに「凄いな」と褒めてもらえるのを
期待していたのですが・・・

おじさんは鼻で「フン」と笑い、
「おまえな、そんなの聴くんじゃないよ」
「ちょっと、こっち来い」
と言って、となりの部屋へ連れて行かれました。

となりの部屋には、スピーカーが4発もある
立派なステレオがありました。
「そこに座れ」と言われたので、
座ると、耳にごっついヘッドフォーンを
掛けられ、何か、レコードをかける準備を
していました。

次の瞬間、物凄い大きな音で、
ドラムとオルガンの音が聞こえ、
さらに凄い歓声が聞こえました。

恐らく、ヴォリュームはフルだったのでしょう。
頭がボワーンとして来ました。

さらにヴォーカルが何か言った後、
鼓膜をつんざくような勢いで、
エレキギターの音が襲ってきました。

もう、ヘッドフォーンを付けてられなかったので、
外して、おじさんの方を見ると、
「いいから、聴いてろ」とまた、ヘッドフォーンを
付けられました。
ボリュームは少し落としてくれました。

耳は痛いし、頭はゴワーンとして、
どんな音楽が鳴ってるのかまったくわかりませんでした。
それでも、とにかく聴いていると
その内、慣れてきたのか、麻痺してきたのか、
ドラムもベースもオルガンもギターの音も
聞こえるようになって来ました。

そして、なにより、ヴォーカルの
今まで聞いてきたポップスとは
まったく違う雄たけびというか
人の声とは思えない凄まじいパワーに
圧倒されました。

全ての音が明確に聞こえるようになって来た時、
自分の中で、スイッチが入ったというか、
眠っていた感性が覚醒したのでしょう。
その後、2枚組みのレコードを最後まで、
むさぼり聴きました。

そのレコードは
「ディープ・パープル」の「ライブ・イン・ジャパン」でした。

全て聴き終わった後、呆然とし、
さっきまで、ベイ・シティ・ローラーズが凄いと
言って騒いでいた自分は何だったんだろう、と
思いました。

家に帰って、とにかく、もう一度、あの音が
聴きたくなり、レコードを買ってもらいました。

そして、ここから自分のロック人生が始まったのでした。

数年前におじさんと会ったときに
「おじさんのせいで、いまだにいい年こいて、
長髪のままだよ」と文句言ったら、
おじさんに「おまえ、何言ってんだよ」と
怒られました(笑)

おじさん、ありがとう。

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