第22話【踏んじまった!】

幕が上がり終わって、客席の方を見ましたが、
照明も付いていないし、目も慣れていなかったので、
まだ、真っ暗な広い空間という感じでした。

そして、S口君のカウントが始まり、
オープニングの曲『INTRODUCTION(HEY YOU LADY)』が
始まった瞬間、照明がバア〜ッと付きました。
「え〜っ、前が見えない」
何か、照明の光で暗い所から急に明るくなったので、
目の前が真っ白になってしまいました。

それでも、少しすると目も慣れて来て、客席の様子が
少しづつ、分かってきました。
すると、今度は「え〜っ、こんなに人がいる」
まあ、頭しか見えないのですが、それでも、前の方は
びっしり埋まっていたので、あまりの人の多さにビックリ。

観客席を見て、一気に興奮状態になってしまった自分は
何故か、ステージ上を走り出しました。
そして、H田君の近くまで寄った時に
何か、箱のような物を踏んだような気がしました。

次の瞬間、H田君のギターの音が・・・

今まで、気持ちよく歪んでいたH田君のギターの音が
何か、ベンチャーズみたいなペキペキ音になってしまいました。
どうやら、自分が踏んだような気がした箱は、
H田君のオーバードライブだったようです。
踏んだ衝撃で、接触が悪くなり、音がペキペキになってしまったようです。

「やばい、どうしよう」
と思いましたが、曲は止められません。
H田君も異変に気付き、どうしたんだろうという感じで
ギターを弾きながら、コードの接触の部分をいじったりしてみますが、
音は直りません。

「H田君、ごめんよ」
結局、1曲目はペキペキの状態のままでした。
2曲目に入って、大分、音は戻って来たようですが、
まだ、完全ではなく、時々、音がペキペキしてました。
2曲目のエンディングで、ギターが自分だけになった時に、
コードの接続し直したり、つまみを調節して、ようやく、
ギターの音が元に戻りました。
自分もホッとしました。

その後、H田君のギターソロやS口君のドラムソロを
入れつつ、コンサートは進んで行きました。
そして、最後の曲になり、
「あー、これで終わりか」と思いつつ、
初めてのライブを楽しんでいました。

最後の曲が終わり、余韻に浸っていると、
客席からアンコールの拍手が起こりました。
でも、もうレパートリーの曲は無いんだよな、と思っていたら、
S口君が「あれ、やるぞ」と言ってきました。
「えっ、あれ!」

『あれ』と言うのは、練習の時に遊びで演奏していた
ジミヘンのパープルヘイズでした。
しかも、歌は自分が冗談で歌っていました。
「えっ、ちょっと待ってよ。本当にやるの」と思う間もなく、
H田君がイントロの、あの印象的なフレーズを
弾き始めてしまいました。

『もう、やるしかない』
覚悟を決めて、イントロのテーマを弾き始めました。
歌詞も何となく覚えていたので、
ヘンテコな歌だったけど、なんとか歌い、
さあ、ギターソロ。

とりあえず、何となくはコピーしていたんだが、
途中から、分けわかんなくなって来て、
「どうしよう。困った」と思ってたら、
「あー、そうだ。あれ、やろう」と良い事を思いつきました。

『歯弾き』です!
その頃、すでにジミヘンは歯でギターを弾いていたと
言うのは知っていたので、「これしかない」と思い、
おもむろに、ギターを口の所に持って来て、
歯でピッキングしようと思ったが、
これがなかなか、ヒットしない。
そりゃ、練習してなきゃ無理だよな。

後で、ライブ音源を聞いてみると、
歯で弾いている所は、ほとんど音が出てません。
たまに、ピキーピキーと音は出ているものの、
ギターの演奏というにはほど遠いものでした。
それでも、『歯弾き』のインパクトはかなりのもので、
観に来てくれた友達は、皆、凄い、凄いと言ってくれて、
何か、背中がもぞ痒い感じでした。

初めてのコンサートは色々事件も有りましたが、
もの凄くバンドを、ロックを楽しめて、本当に楽器やってて、
良かったと思いました。

当日のセットリスト
『INTRODUCTION(HEY YOU LADY)』
『RAINBOW OF SABBATH』
『JUST ONE MORE NIGHT』
『STILL』
『ROCK’N ROLL DRIVE』
『EXPLOSION』
ここまでBOW WOWの曲
—-アンコール—
『Purple Haze』Jimi Hendrix

そして、この後、自分はバンド活動に関して重要な決断を
することになるのである。

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