第30話【持つべきものは友】

「コンサートが出来ない」

ことの成り行きを説明すると、H田君はコンサートで
使うPAシステムの発注を音楽鑑賞協会のA木さんと
いう方に頼んでいたのだが、そのA木さんが
発注し忘れたらしい。
当日、時間になっても機材が来ないので、
心配になって電話してみたらそういう事だったらしい。

ここでPAシステムがどういうものか大雑把に
説明しときましょう。

バンドはだいたいギター、ベース、キーボード等の
楽器(アンプ)の音、ドラムを叩く生音、
ヴォーカルの肉声から成り立っています。
そして、それらの音をマイクで拾って、
ミキサーでバランスを取り、
アンプで増幅してスピーカーから音を出すのが
PAシステムになっています。

これが無いとどうなるかといいますと
ドラムは叩いた生の音が聞こえます。
まあ、近くで聞くと割と大きい音ですけど、
今回は体育館が会場なので、真ん中辺りの
人までしかよく聞こえなくなるでしょう。

ギター、ベース、キーボードはアンプから音を
出すのでヴォリュームを大きくすれば
聞こえるかもしれませんが、逆にアンプの
スピーカーの音が出ている方向の人しか
音がよく聞こえなくなるでしょう。
ヴォーカルは地声しか聞こえません。
アンプの音に負けないようにするには
かなり大きな声が必要でしょう。

さらにPAシステムはそれらの音をマイクで拾って、
ミキサーで音量や定位(音を左右のどれくらいで出す)
を決めて一番バランスのとれた状態でスピーカーから
出しますのでそれが無いと各楽器が
バラバラの状態で聞こえてしまいます。

というわけで、大きな会場のコンサートには
PAシステムは絶対不可欠なものなのです。
そのPAシステムが無いので「コンサートが出来ない」
ということになったのです。

A木さんやH田君が色々他の業者に電話で
当たってみてくれましたが、
さすがに当日じゃ難しかった。
やっぱり、コンサートは出来ないのかなと
思ってた時でした。

誰が言ったのかは覚えてませんが、
「フォークソング部のPAを借りたらどうだろう」

早速、武道場に行ってみました。
すると、もうライブも終わって、片付けに
入っているところでした。
フォークソング部の人達は「片付け終わったら見に行くよ」
と言ってくれましたが、事態はそんな状況じゃなく、
事情を話すと「じゃ、みんなでPAシステムを体育館に運ぼう」
ということになりました。

PAのセッティングはH田君が出来るというので、
とにかく、みんなで機材を一旦ばらして体育館の方に
運びました。
バンドのメンバーやフォークソング部の人、
そして遊びに来ていた他校の音楽仲間、
とにかく、一刻も早く機材を移動させ、
セッティングしようとみんな必死でした。

体育館に行くと、ほかの生徒たちは
事情は分からないけど、「見に行くよ」とか
「頑張れよ」と言ってくれるので
なんか作業しながら段々燃えてきました。

セッティングがほとんど終わって楽器の音を
リハーサルしだすと徐々にお客さん
(ほかの生徒たちや先生たち)が
体育館に入ってきました。
実はみんな、それっぽい衣装なんかも
用意していたんだけど、リハーサルが
まだ終わってなかったので、
衣装を変えるのはヴォーカルだけにして、
みんなは楽器の音を確認していました。

気が付くと体育館の中はもう人でいっぱいでした。
1クラス大体45人くらいで6クラス、それが3学年
45×6×3=810人、先生が大体50人、
もちろん、全員が見に来てるわけじゃなく、
他に作業してる人もいただろうけど、多分、
700人以上はいたと思う。
始業式とかの朝礼で全校生徒が集まった時と
同じぐらい人はいたと思います。

楽器のリハーサルが終わり、衣装替えしたヴォーカルが
戻ってきて、遂にコンサート開始です。

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