第20話【招かざる客】

冬になって雪が降り始め、サッカーの練習も休んで大丈夫になった頃、
バンドの方も3月のコンサートに向けて、本格的に練習を始めました。
練習場所もドラムのS口君の家でやるようになっていました。
実は彼の家は秋頃に新しい家を建て、夜以外なら、
部屋の中で音を出しても大丈夫という何とも恵まれた環境になっていました。

当時はほとんど毎日のように学校が終わると、
S口君の家に集まり、練習する日々が続いていました。
その頃、自分も始めてエフェクターという物を買いました。
Maxsonの【OVERDRIVE】という物でした。
H田君が同じ物を持っていて、凄く歪んだいい音が出ていたので、
自分もそれを買いました。

ところが、何故か、H田君程奇麗に音が歪まない。
何でだろう?と思ってましたが、
理由は簡単で、H田君はレスポールで
ハンバッカータイプのピックアップ。
自分はストラトなので、シングルコイルタイプの
ピックアップなので、オーバードライブでは、
あまり歪まないという事でした。
まあ、それでも、アンプ直よりは多少歪んでたので、
良しとして納得していました。

課題曲として、選んでいた5曲もなんとか形になってきました。
中学の頃、以上にノリの悪かったベースの彼も
その後、たくさん、練習したのか、
なんとか無難に演奏出来るようにはなっていました。

そして、コンサートまであと1ヶ月くらいになった頃、
いきなり、その人はやってきました。

ある日、学校が終わった後、練習するため、
S口君の家に行くと、ちょっと年上っぽい、
どう見ても高校生じゃない男の人がいました。

そして、自分はその人を見た事があるような気がしました。
当時、地元に凄い有名なバンドがあって、
自分もコンサートで見た事がありました。
そこのヴォーカルの人でした。

S口君に聞くと、彼の知り合いで、そのバンドがほとんど活動停止状態
だったので、このバンドで歌わせて欲しいと来たみたいだった。
その時は、「あの人と一緒にバンド出来るんだ」と
もの凄いワクワクしていたのだったが。

その人はH太さん。
まず、その人に合わせてレパートリーを全部変えました。
いや、『Still』だけは聞いてみて、気に入ったみたいだったので、
そのままやることにしました。
【BOW WOW】みたいな(当時では)ヘヴィメタルっぽい曲は
あまり、好きではなかったみたいです。

自分も含め(特にH田君は)、不本意ながらも
意見出来る状態ではなかったので、
仕方ないな、と思い、新しい曲を覚えました。

新しい曲は
『WOMAN』ジョー山中
『SHININ’ YOU, SHININ’ DAY』Char
『American Band』Grand Funk Railroad
それともう一曲やってたような気がするんだが、思い出せない。

とにかく、それからは地獄でした。
ギターがアルペジオで1音、うまくヒットしなくてピキッといおうものなら、
そこで中止、始めからやり直し。
『American Band』のイントロのドラムが
うまく叩けないとずっと、出来るまで曲に入れない。
ベースの音がバスドラと1音でも合わないと、
始めからやり直し。

まあ、レコーディングするくらいのバンドだと当たり前の事だと
思うのですが、まだ初心者だった自分たちには、
とても音楽を楽しめるなどというような状態ではなく、
練習している最中、ずっと、(リアルに)頭痛がするような状態でした。

本当に、こんな状態でコンサートが出来るのだろうか?
と思ってた所・・・

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする